2011年5月4日水曜日

【津山恵子のアメリカ最新事情】?.11メモリアルデー?クロニクル?

 いつもと同じ青空の静かな秋の日を迎えるはずだった米同時多発テロからちょうど9年経った9月11日のニューヨーク?マンハッタン。今年は違った。そこで、二つに分断された米国市民と、増幅していく怒りを見た。この日、グラウンド?ゼロから半径200メートル以内で起きていたことをルポする。

 午前7時半 世界貿易センター跡地(グラウンド?ゼロ)近くで、報道関係者用のプレスバッジをピックアップ。バイデン副大統領が9.11テロ追悼式典に参加するのと、グラウンド?ゼロ近くに建設予定のイスラム教寺院、モスクに絡むデモが予定されているため、警官がほぼ10メートルおきに立つ。

 午前7時45分 グラウンド?ゼロの前でウェブサイト「Heyterrorists.com(ヘイ?テロリスト)」を運営する男性がTシャツをタダで配っていた。人々のテロリストへのメッセージをビデオに集めている。黒人女性がビデオに向かって話す。「あんたたちのすることをずっと我慢して見守ってきた。だからあんたたちもそうするべき。それがお相子ってもんよ」。

 午前9時過ぎ ベトナム戦争の退役軍人、ビル?スタイヤートさん(67)に会う。テロ犠牲者全員の名前が書かれた新聞記事を首から下げていた。「戦争から帰ってきてベトナムと中国の歴史を読んで、米国はベトナムに行く権利はなかったと学んだ。外の国に歴史があることを、私もそして米国人も知らなさ過ぎた」。モスク建設には賛成。

 午前9時35分 同じくベトナム戦争で従軍したジミー?バコーロさん(63)。「ノー?モスク」のTシャツ。「イスラムは腐ってもイスラムだ。全員が敵になり得る」

 午前11時15分 英国の極右組織English Defence League(EDL)のメンバー12人がグラウンド?ゼロ前でたむろしていた。イスラム教全体ではなく、イスラム教急進派だけに反対の立場としているが、「英国ではイスラム教徒が増えて社会問題になっている。モスクの問題は他人事ではない」と語るエド?スティーブンスさん。家族がテロの標的になるという理由で英国の住所は教えてくれなかった。

 午後1時過ぎ グラウンド?ゼロ近くのモスク建設問題で、賛成派と反対派がデモのため集まり始めた。警察は両派の集合場所を2ブロック離れた通りで許可しているため、大きな衝突はなさそうにみえる。

 午後1時45分 モスク賛成派の集会にいた米国生まれの女性イスラム教徒フマ?アーマドさん(29)。「ニューヨークには10万人のイスラム教徒がいて、働き、お祈りをしてきた。自分は米国人だと思ってきたのに、宗教の自由とモスクのために、今日こうして立ち上がらなければならないことは悲しい」。

 午後2時 賛成派集会で主催者が挨拶。「すべての人に宗教の自由を。人種差別のスケープゴートは、以前はインディアン、黒人、そして日系アメリカ人だったが、今はイスラム教徒になっている。人種差別を許すな」。

 午後2時25分 デモ騒ぎを見ていたキャシー?リロさん(19)は、テロで消防士の叔父を失くした。「様子を見に来ただけ。不愉快。今日は叔父さんを思い出す、犠牲者遺族のためのメモリアル?デーなのに。モスクが建設されるのには怒りを感じるけど、今日はそういう主張をする日ではない」。

 午後2時40分 「ノー?オバマ?モスク」のバッジを付けた元世界貿易センターの建設労働者ゲリー?ゴーンさん(56)。「ここはアメリカだ。グラウンド?ゼロ近くにモスクができたら、それはイスラム教徒にテロの記念碑を作らせるようなものだ。えっ、君、日本人だって?日本人はいいやつだよ」。

 午後3時 モスク反対派集会の前で「モスクのイスラム教徒は、あなたたちの敵ではない」という垂れ幕を持っていた若者に、反対派の年配男性が飛び掛った。警官に抑えられたが、警官は2ブロック彼と一緒に歩き、「今日は辛い日だ。感情的になるのも分かる。ちょっと家に帰って休んだらどうだ」と言って、彼を帰宅させた。

 午後3時40分 賛成派の若者が近くを通ったために興奮した反対派男性が、コーランを地面に叩きつけて踏みつけた。近くにいたテレビ局の同業者から「さっき、コーランを燃やした人もいたんですよ」と聞いた。

 午後4時15分 イスラム教徒のアブドゥル?マリクさんが路上で演説。「やつらは、ユダヤ人を弾圧し、同様にイスラム教徒を弾圧しようとしている」。そばで、若い白人男性が「9月11日に通りに出て、踊ってお祝いしていたんだろう!」と繰り返し叫んだ。

 午後6時過ぎ 帰宅。フロリダ州の牧師がモスク建設に反対して、イスラム教の聖典コーランを焼く計画をしていた(後に中止)のに抗議するデモがアフガニスタンであったことを知った。治安維持軍の発砲でデモ参加者の一人が死亡。ニューヨークで火がついた「怒り」が世界に広がった結果の最初の犠牲者が出てしまった。

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引用元:リネージュ2 rmt